『熊の敷石』

舞台はフランスノルマンディー地方の田舎町。
主人公のぼくはひさしぶりに友人のヤンのもとへ訪ねていく。
そこではニュートラルな時間が流れ、ぼくはその時間の中に自分をゆだねていく。

『熊の敷石』
これはフランスに古くから伝わる説話。
おじいさんと暮らす熊が、寝ていたおじいさんの顔にとまったハエを追い払うのに投げたのが庭の敷石。
熊の投げた敷石は、ハエとともにおじいさんの頭も吹っ飛ばす。

コンテクストを共有できない関係で衝突は起こらない。
それを共有して初めて衝突が起こる。
熊もおじいさんと一緒に暮らすようにならなければ殺すこともなかっただろう。

熊が投げる敷石は人が投げる言葉。
定義され石のように硬い。
だから相手を思って投げたとしても、相手を傷つけてしまう。
カーマンベールチーズなら傷つかない。
うわべだけ、楽しむ。
意味もない世界記録に沸き返る。
でも、それでも人は「なんとなく」つながっていく。
目の見えない子供と目を縫われた熊のぬいぐるみのように。
社会を超え、民族を超え、言葉の壁を超え、「なんとなく」つながっていく。


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